賢いオロエン 1



 オロエンは竜魚でした。
 竜魚というのは魚の種類のひとつで、大きくて珍しい(数の少ない)魚でした。
 昔は空を泳いでいたのだとか、偉大な戦士が罪を犯して魚に変えられたのだとか、食べると病気になるとか病気が治るとか、沢山の噂を持つ魚でした。
 それは竜魚が、全く姿がなくなって滅んだように見えたのに、数年も経ってからひょっこり子孫の現れるような不思議な魚だからかも知れませんでした。
 オロエンはお池の底に住んでいました。
 お池の底はとても素敵にほの明るく、いつもひんやりとした静けさで満たされていました。
 木々の葉っぱの悪戯で出来る光のリボンは青緑色に垂れ落ちて、魚たちがそれを横切れば、鱗がきらきらと美しく輝き、ざりがにに降り注げば、立派な殻はいっそう頼もしく気高い色を見せました。
 オロエンはそんなお池の底が気に入っていました。
 他の小魚たちのように無闇に危険な外との隔たりの膜に近づいたりせず、いつも底を這うようにしてゆったりと泳いでいました。
 オロエンは賢い竜魚でしたから、様々なことを心得ていました。
 他のどんな魚も貝も知らないことを、オロエンだけは知っていました。
 しかしオロエンは賢いので、それを自慢したり、不要なことを吹き込んだりするのを良しとせず、静かにひとり過ごすのを好みました。
 それがオロエンの今までずっと続いた毎日で、これからもずっと続くのが当然でした。



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2004.09.25 公開