賢いオロエン 15
そうしてお池はまたひんやりと静かになりました。
オロエンはまた、お池の底で暮らし始めました。
以前のように底を這うようにしてゆったりと泳ぐ日々を再び迎えました。
お池の底は今日もまた、とても素敵にほの明るく、ひんやりとした静けさで満たされていました。
木々の葉っぱの悪戯で出来る光のリボンは青緑色に垂れ落ちて、魚たちがそれを横切れば、鱗がきらきらと美しく輝き、ざりがにに降り注げば、立派な殻はいっそう頼もしく気高い色を見せました。
オロエンはそんなお池の底が気に入っていました。
他の小魚たちのように無闇に危険な外との隔たりの膜に近づいたりせず、いつも底を這うようにしてゆったりと泳いでいました。
オロエンは賢い竜魚でしたから、様々なことを心得ていました。
他のどんな魚も貝も知らないことを、オロエンだけは知っていました。
しかしオロエンは賢いので、それを自慢したり、不要なことを吹き込んだりするのを良しとせず、静かにひとり過ごすのを好みました。
それがオロエンの今までずっと続いた毎日で、つまりオロエンは、鱗が無いことの他は当然の姿に戻ったのでした。
オロエンが嘆いているか怒っているか、それとも気にしていないのか、それはお池の誰にもわからないことでした。
しかし賢いオロエンのことなのだから、きっとこんなときに抱く一番正しい気持ちを知っているに違いなかろうと、一部始終を知るお池の生き物たちは思っていました。
おはなしは、これでお終いです。
もしも賢いオロエンに、何か言伝があるのなら、どうぞ仰ってください。
お池の底では難儀でしょうから、きっと伝えて差し上げます。
─── 賢いオロエン おわり
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2004.09.25 公開