賢いオロエン 14



 ごごうという音がしました。
 何かが細長いものがオロエンの身体のすぐ横を通り過ぎました。
 オロエンは自分でも気付かぬうちに、思わず身体を動かしていたのですから、それが通った場所にはオロエンがいたはずなのでした。
 お池の上からやってきた細長いそれは、オロエンが何事かと目で追う頃には、再び上へ、膜の向うへと引っ張り戻されるところでした。
 それは銛(もり)でした。
 避けられたことは奇跡のようでした。
 彼女の隣には見慣れないムーヴンがいました。
 彼女よりずっと大きく立派な身体をしていて、大きな目を開いてこちらを見ていました。
 その横で、彼女は笑ってこちらを指差していました。
 オロエンは乱れた膜の揺らぐ合間にほんの僅かにそれを見つけ、息が止まりました。
 あれはムーヴンの雄なのでした。
 そしてその雄は、首からじゃらじゃらと飾りを提げていました。
 きらきら光るそれは、紛れもなく鱗でした。
 オロエンは全てを悟りました。
 そして有らん限りの力でもって動かない身体を動かし、お池の底を目指しました。
 何もかもがまるで一瞬の出来事でした。



前頁 / 目次 / 次頁

2004.09.25 公開