悪魔の王様 16
「なんてことだ!どうしてこんなことに!」
彼はその声を頼りに、逸る心をなんとか落ち着けて、出来るだけ慎重にそちらへ歩いていきました。
「どうしたの」
彼がそろりと近付くと、やっぱりそれはひとりの友達でした。
そして友達は、ひとりを抱えていました。
「あっ!みつけた!よかった。ねえ、君、僕は話がしたいんだけど、起きてくれない。寝ている間はそうっとしておく約束だけど、暗くないからおまけして。だいじな話なの」
彼が言うと、友達は叫び声をあげました。
「寝ているだって!何を言っているんだ!」
「違うの」
「見てわからないのか、死んでしまったんだ、死んでしまったんだ!ちくしょう!」
「そんな!どうして!」
「どうしてだと!お前が殺したんだ!何もかもすべて、お前のせいだ!」
「僕のせい!」
驚きと、それから訳のわからない何かのために、彼の全身は凍り、そして煮えたぎりました。
俄かにぶるぶると震えました。
「あ、あ、あ!」
息が変になってしまいました。
吸うのも吐くのもうまくいかず、彼はますます何が何だかわからなくなりました。
そうしているうちに、ひとりの友達はひとりを横たえて立ち上がり、彼に向かって大声をあげました。
「悪魔め、この悪魔め!」
そして何か尖ったものを持って、彼に向かっていきました。
「あ!あ!何をするの」
彼は尖ったものを身体にちくちくされました。
ちっとも痛くなく、そうするところを見ていなければちくちくされていることにも気付かないほどでしたが、それがおなかの産毛に当たったものだから、くすぐったくてどたばたと暴れました。
「なに!なに!やだ、やだ、わあ!やめて!意地悪しないで!わあ!」
そしてとうとう、友達を踏んづけてしまいました。
「ああ!」
彼は悲鳴をあげました。
「ああ、ああ!踏んじゃった!踏んじゃった!どうしよう!ああ、ああ、ああ!」
すっかり混乱しました。
彼の世界はひっくりかえって溢れてしまいました。
もう何もかもがめちゃくちゃで、あべこべでした。
全く分別をなくした彼は、ぐるぐる回って、顔や身体を掻き毟って、転がってじたばたして、最後にとうとう、ひとりと友達を食べてしまいました。
それから彼はどこへともなく猛然と走り出しました。
途中、壁のような篭のようなものを突き破りましたが、痛くも痒くもありませんでした。
彼はもう、とにかくがむしゃらに、どこまでもどこまでも遠くへ遠くへ走り去りました。
【 前頁 / 目次 / 次頁 】
2004.11.26 公開