悪魔の王様 15



 暗闇が終わって、明るくなって、そしてひとりが伸びをしておはようを言いました。
 彼は待ちかねていたように、あれからずっと考えていたことを捲くし立てました。
「ねえ君、考えてみたんだけど、僕はやっぱり嬉しくないよ。だって暗闇へ行ったら君と会えなくなるし、僕は空想が下手になっちゃった。暗闇へ行くのがとても恐くて、だから行きたくない。それで、いいことを思いついたんだけど、僕はここで王様を続けるよ。君がいてくれたら僕は食べていけないものを食べたりしないし、あれは言うことをきくでしょう。明るいのだってそんなに嫌いでなくなったんだよ。だから」
 ひとりは、彼の言うのをぽかんとして聞いていましたが、だんだん目が覚めてきて、だから、に差し掛かったところで、急に大声を出しました。
「いけません!」
 彼はびっくりして続きを引っ込めました。
 ひとりは立ち上がって言いました。
「駄目です!あなたは帰らなきゃいけません!いつまでもここにはいられないのですよ。あなたは、いるべきところへ帰らなくては」
 今度は彼がぽかんとする番でした。
 ひとりが一体何を言っているのか、彼にはわかりませんでした。
「我が儘を言わないでください。ね。お願いです。あなたは最初っから、ここにいることの方がおかしかったのだから。それに、わたしの友達は、あなたの住処を見つける為にあちこち駆けずり回ったし、そのうえ大変な危険を冒してここへと通ってくれたんですよ」
 ひとりは嗜めるように言いました。
 彼は、友達のことが話に出た途端、どうしようもない怒りに心を侵されました。
「なんだ!」
 彼は怒鳴りました。
「なんだなんだ、なんだよう!いちゃいけないところに連れてきたのは、あれじゃないか!僕は自分で来たんじゃないのに!好き勝手に連れてきておいて、今度は出て行けなんて、ひどいよ、ああ、ああ、ひどい!君もあれとおんなじ!ひどい!」
 彼は地団太を踏みました。
 大地震が起こりました。
 彼の十二本の足が地面を打つたびに、大きな大きな太鼓のようにドドン、ドドンと音が鳴り、ぐらあんぐらあんと揺れました。
 あれを脅かしたときとは比べ物にならないほどの強さでした。
 ひとりは必死で足にしがみつきましたが、とうとう落っこちて転がりました。
「ひどいよ!嫌いだ!君なんて嫌いだ、君こそ出て行ったらいいんだ!」
 大声を出すと、びゅうびゅうと大風が吹き荒れました。
 強い風と大きな音は、さながら嵐のようでした。
 そしてとうとう、ひとりは吹き飛ばされてしまいました。
 彼は気付かずに喚き散らしました。
 そしてひとしきり大暴れして、ようやく気が治まると、なんとひとりが足の上からいなくなっていることに気がつきました。
 あわてて辺りを見回して、彼はすっかり動転しました。
 ひとりの姿が見えないのです。
 彼の目は遠くを見ることが出来ないので、足元からいなくなれば途端に見失ってしまうのでした。
 一緒に過ごし始めてから、ひとりの姿が見えなくなったことなど一度もありませんでした。
 とんでもないことになってしまい、彼の心臓は箍が外れてしまったようになりました。
 何とかしなければいけないと思うのに、何をしていいかわからずに、右か、左かと、足先を忙しなく動かしました。
「どうしよう、どうしよう」
 そうしていると、突然、誰かの叫び声が聞こえました。
 その声には覚えがありました。



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2004.11.26 公開