賢いオロエン 4
ある時オロエンの頭に妙案が浮かびました。
ムーヴンに贈り物をするのです。
賢いオロエンは竜魚という種が稀少であることを知っていました。
その何の変哲もない身体を守る為の鎧が、鱗を持たないものにしてみれば、この上なく素晴らしい美しいものに見えることも知っていました。
つまり、それを剥いで、あのムーヴンに贈るのです。
ムーヴンは喜び、笑うに違いありません。
必要ならば、ムーヴンの習わしに従って、あのムーヴンがそれと何かを引き換えにしても構わないとオロエンは思いました(この頃になるとオロエンはムーヴンについて大分思い出してきました)。
うきうきしました。
ラン、ラランと心が歌いました。
なんという素敵な思いつきでしょう。
そうと決まれば早いほうが良いのです。
明日、あのムーヴンがいつも通りお池にやってきた時に、そこに贈り物が置いてあるという寸法です。
オロエンは夜を待ちました。
澄ました顔を、なんでもない顔をして昼を過ごし、お池に眠りが訪れた頃、おもむろにあの膜に近づいてゆきました。
そして程近くまで行って泳ぎ止り、じっと膜を見つめました。
さて、ムーヴンに贈り物をするためには、これを破らなくてはなりません。
オロエンにとって、今までずっと考えもしないことでしたから、少々勇気の要ることです。
オロエンは何回か胸びれをびらびらやって、それから勢いをつけ思い切って尾びれを振るいました。
膜はその大きな身体を押し戻そうとしたようだけれども、オロエンは負けませんでした。
大きな音がして、目の前に何が見えているのかさっぱり分からなくなったと思うと、次に気がついた時には、ばしんと音を立ててオロエンの巨体が地面に転がっていました。
息が止まりました。
オロエンはこれはいけない、早くしないと死んでしまうと思い、必死に身を捩り力の限り地べたで暴れて、ようやく一枚鱗を剥ぎました。
そして鱗の剥がれたのがわかると、もう何も考えられないまま、とにかく息の出来るところへ戻りたくて、えいと膜に向けて身体を落っことしました。
ばどん、という音がして、オロエンはいつもの世界に戻ってきました。
それからいつもの静かな底へ帰り、明日の朝のことを考えながら眠りました。
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2004.09.25 公開