賢いオロエン 5
翌朝のことです。
オロエンは嬉しくなりました。
膜の向うで、彼女は笑ったのです。
オロエンの鱗を両手で空に掲げて、顔の筋肉をこれでもかと使っていました。
脚(これも二本の尾ではないと思い出したのです)を軽快に動かして、飛び跳ねながらくるくると回っていました。
その様があんまり幸せで、オロエンは何かいけない毒でも飲んでしまったかと思うほどに心が躍るのを感じました。
オロエンは彼女がどこかへ去って行った後も、しばらく膜の近くに止(とど)まって、その心地に浸っていました。
随分経ってようやくお池の底へ戻りましたが、心は静まりませんでした。
昼が過ぎ夜になってもそれは収まる気配もなく、オロエンは何度も何度もその時の彼女の様子を、あの良く動く顔と軽やかな足取りを思い返しました。
そしてとうとう、もう一度贈り物をすることに決めました。
見たいのです。
思い返すだけでは足らないのです。
明日の朝、また彼女を喜ばせてやろう。
そう思うと気持ちが脈打つようでした。
夜のうちにオロエンは再び勇んで陸にあがりました。
そして昨夜と同じに、苦労して一枚鱗を剥ぎました。
尾びれをびたんとやって水に戻ると、他の誰かが持っていってしまってはいけないと、朝までじっと見張っていました。
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2004.09.25 公開