悪魔の王様 2
ある日、暗い闇の中へ、誰かが訪ねてきました。
「やあ!これは!これは素晴らしい」
と、突然やってきたそれは言いました。
食事を終わったばかりだった彼は、大きな身体を動かして、声のした方に向き直り、
「なにが素晴らしいの」
と、尋ねました。
「あなた様です」
声は言いました。
どうやら彼の足元に小さなものがいるようでした。
「僕はあなた様じゃないよ。素晴らしくないから」
彼が言うと、それは笑いました。
「何を仰います!あなた様はこんなに、誰よりも大きく、誰よりも得体の知れないものを食べ、誰よりも暗い闇の中に住んでいるではないですか。わたしはながいこと探していたのです。誰よりも大きく、誰よりも得体の知れないものを食べ、誰よりも暗い闇の中に住んでいるお方を!そしてやっと見つけた!」
それがあんまり嬉しそうなので、彼は少し良い気持ちになりました。
「見つけてどうするの」
わくわくしたような声に応えるように、ほんの少し弾んだ声で訊きました。
「王様です!われらの王様になって頂くのです、そう、あなた様に!」
「えっ」
彼は驚きました。
「王様って何をするの」
「王様は王様ですから、つまり、われらの一番偉い王様は、われらを率いるのですよ」
「率いるってどうするの。どこかへ行くの。僕はここがいい。ここで、色んなことを考えたり、色んなものを食べたりしていたい」
彼はそれの言うのを聞いて、ごそりと少し後退りしました。
するとそれは、
「何を言う!」
いきなり怒鳴りました。
「何を、何を、何を!お前はこんなに大きいではないか、大きいとは強いことだ!強い者がみんなの前へ出ないで、許されると思うか!強い者が強いことを隠して引っ込んで、みんなを騙すのか!」
彼はびっくりして、
「騙さないよ。騙さないよ」
と、また前へ出ました。
「僕は誰も騙さないよ。騙すなんて嫌いだもの」
するとそれは途端に調子を変えて言いました。
「そうだと思いましたよ。ならばやっぱり、あなた様は王様にならなくては。こんなに大きくてお強いのだから。今なんて、前へ出た拍子にわたしを踏み潰すところだった!ああ、なんてお強いのでしょう、われらの王様は。それを隠してはいけませんよねえ。あなた様は騙すなんてお嫌いですからねえ。では参りましょう。さ、さ、さ」
こうして彼はそれについていくことになりました。
【 前頁 / 目次 / 次頁 】
2004.11.26 公開