悪魔の王様 5



 次の日、あれはまだ明るくなったばかりの頃に、彼を迎えに来ました。
 どうやら出掛けるようでした。
「ここで食べるんじゃないの」
 彼が尋ねると、あれは、
「あなた様はとても大きいので、おなか一杯になるほどの食べ物を運んでくるのは骨が折れます。だから、食べ物のあるところに、あなた様が出向くのですよ」
 と、答えました。
 彼はなるほどと納得しました。
「それで、どこへ行くの」
「案内しましょう。ついて来てください」
 そうして彼は、ここへやってきたときと同じように、あれの行くのに着いていきました。
 辺りは明るいので、目隠し鬼の遊びのように、彼は導かれました。
 途中で彼はふと、あれのほかにも随分たくさん、一緒に歩いていることに気がつきました。
 彼の後ろからはがしゃがしゃという音が聞こえていて、それは小さなものたちが歩いている音に違いありませんでした。
「大勢だね」
「食事はその方が楽しいかと」
「そうかな。そうだね。とてもいい思い付きだね。ああ、早く食べたいなぁ」
「なに、もうじきです」
 そんな話をしてから、たっぷりしばらく歩いたあと、ようやく目的の場所に辿り着きました。
 でこぼこ道をいくつも越えたので、彼はますますおなかが減っていました。
 もう我慢できない程でした。
 なので、やっとあれに、
「さあ、着きました」
 と言われたときは、大喜びしました。
「ほんとう。着いたの。僕もうおなかがぺこぺこだよ。どこに食べ物があるの」
「あっちです。まっすぐ行ってごらんなさい。食べ放題ですよ」
「うん、なら、行ってくる」
 彼は、あれに教えてもらった方へと、一目散に駆け出しました。
 もうおなかが減って減って、我慢が出来ませんでした。
 すぐそこに食べ物があると思ったら、おなかがぐうぐう鳴り出して、自分のおなかの音で何も聞こえなくなるほどでした。
 少し走ったら、あれの言った通り、足元にたくさんのものがありましたから、彼はもう何にも考えずに、それらを片っ端から食べました。
「もぐもぐ、もぐもぐ、ああ美味しい!」
 彼は夢中になって、気の済むまで食べました。
 そしてもうおなかも一杯だと思った頃、ちょうどよくあれが声をかけてきました。
「そろそろお終いですよ。いやぁ、よく食べたことです」
「うん、たくさん食べたよ。見て、おなか」
 彼のおなかはぷっくりと大きく膨らんでいました。
「これはこれは見事なおなかですなぁ。おお、すごい」
 あれは身震いしていいました。
「では帰りましょうか。お食事も済んだことですから」
「うん、帰ろうか。あれ、みんなは帰らないの」
 彼は、彼のあとに着いて来ていた小さいものたちが、わらわらと動き出したのに気がついて言いました。
「皆はこれから仕事がありますので。あなた様は気になさらずとも良いのですよ」
「ふうん。お仕事がんばって」
 そうして彼は、膨れたおなかに満足しながら、あれと一緒に帰っていきました。



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2004.11.26 公開