悪魔の王様 7



 ある日、彼は、そろそろおなかが空いたので、あれが現れる頃だろうと待っていました。
 しかしなかなか来ないので、どうしたのだろうと不思議に思っていました。
 そしてとうとう日が暮れてしまい、次の日になりました。
 その日も彼は待っていましたが、やっぱりあれは来ませんでした。
 どんどんおなかが空いてきました。
 彼は食べることばかり考えました。
 そうやって過ごすうち、いつもよりだいぶ遅れて、ようやくあれは現れました。
「いやぁ、お待たせしましたかな」
「うん、ちょっぴりだけね。さあ、はやく行こうよ」
 彼は、これで食事にありつけると思って、あれを促しました。
「いや、お待ちを。残念ながら、今日は食事にお連れできないのです。色々事情がありまして。ああ、でもご心配なく、ちゃんと食べ物を用意しましたから。ここで召し上がってください」
 食事にお連れできない、の辺りでびっくりしていた彼は、食べ物を用意しました、の辺りでほっとしました。
「ああよかった。すごくおなかが空いたんだもの。空き過ぎて音も鳴らなくなっちゃったんだよ」
「いやはや申し訳ない。あなた様が満足するには足りないかと思いますが、これを腹の足しにして、もうしばらくご辛抱ください」
 そう言うとあれは何か合図をして、小さなものにとっては大きな、彼にとってはやや小さな箱を用意させました。
「それではわたくしはこれで。ごゆっくり」
「うん、じゃあね。それと、次の食事をはやくね」
 あれが出て行ってから、彼は箱を見てみました。
 箱ごと食べるわけにいかないだろうし、明るくてぼんやりとしか見えないので、とにかく開けてみることにしました。
「うまく開くかなぁ。僕、足先が器用じゃないから」
 今度会ってごちそうさまを言う時に、箱が壊れていたら悪いと思い、彼は慎重にそうっと足を伸ばしました。
「あれ?」
 彼はそれが箱でなかったことに気がつきました。
「違った。箱じゃなくて篭だった」
 彼が顔を近づけて、よく見ようとしたとき、もうひとつ大変なことに気がつきました。
「わあ!」
 なんと、篭の中から悲鳴が聞こえたのです。
 そこに入っていたのは、たくさんの小さいものたちでした。
「驚いた!どうしたの、なんで篭に入ってるの」
 彼はびっくりしました。
「ねえ、もしかして泣いてるの。かわいそうに、どうして泣くの」
 そう尋ねても、誰も返事をしませんでした。
 彼は困ってしまいましたが、一生懸命考えて、こう言いました。
「わかった、君たちはおなかが空いていて、だからみんなで篭に入って、僕の食べ物を食べちゃったんでしょう」
 やっぱり誰も答えませんでした。
 彼は違ったのかと思って、もう一度よく考えました。
「それか、ひょっとして君たちは篭が好きなの。だからその篭に入りたくって、食べ物をどこかへうっちゃって、中に入ったんだ。それで、いたずらしたから怒られると思って泣いているんだね。大丈夫だよ、僕は怒るのが好きじゃないから」
 彼はそうに違いないと思って、そうかそうかと言わんばかりの口ぶりでした。
「でも食べ物は残しておいて欲しかったなぁ。だって、僕、とてもおなかが空いているから」
 彼の言いようを聞いて、小さなものたちは俄かにざわめき立ち、顔を見合わせているようでした。
 と、身を寄せ合っていたなかのひとりが立ち上がり、皆を掻き分けて彼に近付きました。
 それを見てまわりはどよめき、反対に彼から遠のきました。
 するとそのなかからもうひとりが、波に逆らって最初のひとりに駆け寄りました。
 ふたりを残して、ほかの小さなものたちは、篭の反対側のすみっこにかたまりました。
「お話ししたいことがあります」
 最初のひとりは、彼にそう声をかけました。



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2004.11.26 公開