悪魔の王様 12



 ある日ひとりは彼の足から降りて、彼の住処の話をするため人目を忍んできた友達と、また身体をくっつけていました。
 彼はそれを見て、
「ねえ、前から思ってたんだけど、それって何をしているの」
 と尋ねました。
「ただ抱き合っているだけですよ」
 とひとりは答えました。
「どうして抱き合うの」
「仲良しだからです」
 彼は、自分もひとりと仲良しだと思い、
「なら、僕も君と抱き合う」
 と言いました。
 するとひとりは、
「あなたは大きすぎて、抱き合ったらわたしは潰れてしまいます」
 と笑いました。
 彼はそれを聞き、はっとして、そのあとしょぼんとしました。
 そして、そう、と一言呟いたきり、黙ってしまいました。
 ひとりは彼のその様子をみて、
「ごめんなさい」
 と謝りました。
 友達を帰らせて、急いで彼の足の上によじ登り、それからもう一度ごめんなさいと謝りました。
「あなたとわたしは大きさも形も違うから、抱き合うのはとても難しいと思います。これで我慢してくれますか」
 ひとりは、彼の足に出来るだけ身体をへばりつけました。
「うん。仕方がないね」
 彼は少し気を取り直して、隣の足でそうっとひとりに触りました。
 すると、あっと声を上げて、ひとりは落っこちそうになり、慌ててまた登りなおしました。
 ひとりはびっくりしたと言って笑いましたが、彼はちっとも楽しくありませんでした。



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2004.11.26 公開